■8月6日のために
-ヒロシマで生き残った詩人と被曝死した映画監督-
昭和20年8月6日、広島に原爆が投下された。原民喜が、その破壊された街を茫然と歩いていたとき、その瓦礫の中に映画監督がいたのは、未だほとんど知られていない。その名は白井戰太郎という。同じ日のある瞬間に、人生を大きく踏み外し、あるものは再び光をみることがなかった。その二人に焦点をあて、本特集は8月6日のためのプログラムを組んだ。
(2008年/DV/カラー/20分)
監督:宮岡秀行
原作:原民喜「夏の花」より
朗読:野村喜和夫
1945年の8月6日朝8時15分、原子爆弾が広島で爆発した。
その時、原民喜は、広島市内の実家の中にいた。一瞬の閃光と暗闇。民喜は徒歩で燃えさかる街を彷徨した、「水ヲ下サイ」。
本作は、身を以てヒロシマを体験した民喜にどんなことがあったのか、と問いかける。
(2011年/HD/カラー/89分)
監督・脚本:福間健二
撮影:鈴木一博 編集:秦岳志
音響設計:小川武 挿入歌:鈴木常吉
プロデューサー:福間恵子
出演:吉野晶、小原早織、鈴木常吉
ヒロインは、東京の郊外に住むアラフォー世代の千景。自然雑貨の店で働きながら、写真を撮っている。2009年の夏、千景の働く店に、かつて一緒に暮らした庄平の娘サキが現われる。千景は庄平とも再会し、再び親しくなるが、大学生のサキはそれを納得しない。原民喜の原爆詩「水ヲ下サイ」をキーワードに、まるでエリック・ロメールの映画のように、夏の匂いが画面に充溢する。
昭和2年右太プロあやめ池撮影所作品
(1927年/モノクロ/サイレント/32分)
*上映素材DV、音声は弁士の活弁入り
監督:白井戰太郎
指導者:河上勇喜 撮影:松井鴻
出演:
市川右太衛門、高堂国典、新妻律子
後に大都映画の看板監督として娯楽時代劇を中心に活躍した白井の監督デビュー作。撮影当初は『忍幻苦(にんげんく)』と題されていたのが『怒苦呂』と改題されて封切られた。幕末を舞台にした時代劇だが、キリシタン弾圧を描いた当時としても珍しい作品である。主人公である教徒軍の熱血の将、霊之助を市川右太衛門が熱演している。
昭和13年大都映画作品
(1938年/モノクロ/ 75分)
*上映素材DV
東京国立近代美術館フィルムセンター所蔵作品
監督:白井戰太郎
脚本:煙崎朝雄、薦野国雄、藤野北辰
撮影:永貞二郎
出演:杉山昌三九、琴糸路、藤間林太郎、水島道太郎
軍神と呼ばれ、38歳で支那事変にて戦死した杉本五郎中佐は、1900年、広島県出身。遺書形式の文章『大義』は昭和13年(1938年)5月に刊行。終戦に到るまで版を重ね29版、130万部を超える大ベストセラーとなった。戦時中の死生観を示す代表的な著書とされ、天皇を尊び、天皇のために身を捧げることこそ、日本人の唯一の生き方と説いて、後の三島由紀夫や保田與重郎を予告する。杉本に憧れ軍人を志した者も少なくなく、本作では杉本を、杉山昌三九が熱演している。
昭和16年大都映画作品
(1941年/モノクロ/111分)
*上映素材DV
監督:白井戰太郎
脚本:湊邦三 原作:白井喬二
撮影:広川朝次郎
出演:
阿部九洲男、琴糸路、水川八重子
江戸市中の谷中界隈に出回る贋金を巡って、隠密親子と、その父を敵と狙う武士・宇家田輝雪(近衛)が敵となり味方となって火花を散らす、大都映画末期に於ける超特作時代劇。出演は、阿部九洲男、琴糸路の両トップスターをはじめ、互いにライバルとして競い合った大都の精鋭・近衛十四郎と大乗寺八郎など、スター俳優が総出演、近衛を亜細亜映画で主演デビューさせた白井戰太郎が戦地から帰還した第一作である。
(2009年/HD/パートカラー/ 107分)
第59回年ベルリン国際映画祭フォーラム部門正式招待作品
監督・脚本・編集:舩橋淳
撮影:水口智之 照明:関輝久 音楽:ヤニック・ダジンスキー 共同脚本:根岸彩子
出演:野村勇貴、佐藤麻優、加藤勝丕、小川三代子
舞台は東京下町の谷中。ホームムービーの保存・修復活動をしているかおりは、昭和32年に焼失した「谷中五重塔」とその姿を記録した8ミリフィルムの存在を知る。寺院、霊園の墓守、伝統工芸の職人、郷土史家に取材を試みながら、ありし日の塔に思いを馳せるかおり。 一方、時代を遡ること江戸中期、五重塔の建設に燃える大工十兵衛は、親方や妻お浪の反対を押し切り、独力で塔を作り上げようとしていた。彼を突き動かす想いとはいったい何か?
現代と江戸時代を往復するその無時間性は、吉田喜重監督『エロス+虐殺』を超える時間=イマージュとして絶賛された。
■孕み創造される映画
-出産と映画、あるいは人生-
(2002年/DV/カラー/60分)
第34回ロッテルダム国際映画祭出品作品
制作:三好暁、宮岡秀行
オリジナル・テクスト:宮岡秀行「Girlquake!」
出演:三好暁、中根以久美ほか
アパートでまだ生まれたばかりの息子と暮らす未婚の母、三好暁。かつて一緒に映画を撮っていた友人高岡と久しぶりに再会し、当時、未完成となってしまった映画『Girlquake!』について回想する。その映画の中で三好は、私生児を出産する役柄であったが、それが現実になってしまったため、映画は中断された。
虚構として描かれるはずだった、妊娠し私生児を生むという映画のプロットを現実に生きた三好が自らの過去を語ることで、映像作家が生きた虚実の揺れが現前化されていく。出産を通して、「映画を撮ること」と「母になること」という二つの創造が、戸惑う一人の女性の中で、やがてメビウスの輪のように緩やかに響き合い、産み出されていく。
(2006年/BETACAM/カラー/43分)
山形国際ドキュメンタリー映画祭 2007 特別賞
ロカルノ国際映画祭 2006 特別賞
監督:河瀨直美
製作協力:Arte France製作:遷都/組画
出演:河瀨宇乃、光祈、河瀨直美
家族、生と死をテーマに作品をつくり続ける映画作家・河瀨直美が自らの出産経験を通して「いのち」のつながりを描く。
■中村優子という女優
出産を直前に控えた女優・中村優子の特集。この身ひとつで―この心で―直に入り込む、もっとも「自然(かむながら)」な女優・中村優子の素顔。
(2009年/35mm/カラー/117分)*上映素材DV
ブエノスアイレス国際映画祭 2001 最優秀主演女優賞
監督・撮影・脚本・音楽:河瀨直美
出演:中村優子、永澤俊矢、山口美也子
2009年カンヌ国際映画祭で功労賞にあたる「黄金の馬車賞」を河瀨直美が受賞した際に、10年の時を経て『火垂』(2000年製作)を再編集し、特別上映した。カンヌ上映後、さらに再編集を加えた決定版がこのヴァージョンである。
ストリッパーの恭子に育てられ、自らもストリッパーとなったあやこは、妊娠、堕胎、男との別れを経験し、今や生きる意欲を失っていた。そんな中、彼女は天涯孤独の陶芸家・大司と出会う。奈良を舞台に、中世のような愛のドラマを描いてきた河瀨直美が、正攻法で描いた愛の讃歌。
(2003年/DV/カラー/41分)
監督・脚本:青山真治
撮影:たむらまさき 美術:林千奈
音楽:長嶌寛幸 録音:菊池信之
出演:斉藤陽一郎、中村優子、
大久保鷹、伊藤秀一
秋彦は古びたアパートに住んでいる。ギターを弾き、曲を創り、路上で歌ってみたりするが、それが夢であるとは言い切れない。恋人もいる。アパートの隣の住人は昼夜をとわず読経をくり返す。上の階には、アパートから追い出されたがっている妙な中年の男が住んでいる。そんな日常がある。秋彦は明け方の街道に佇む。二十代中盤の無気力な生活の記憶を「自由」に描写する試み。
チョンジュ国際映画祭製作の短篇集の中の一篇。
(2009年/HDV/カラー/34分)
脚本・監督:河瀨直美
撮影:山﨑裕
録音:森英司
出演:北村一輝、中村優子
舞台は奈良県桜井市。在日韓国人カン・ジュンイルが亡き祖父から、高句麗王とおぼしき人物が描かれた一本の掛け軸を託され、「狛」の地へと辿り着く。
そこには、仏教伝来以前から続いてきた三輪山の信仰と初子存在。
神が宿る「狛」の地で男女の魂が交錯する。運命の二人の行方は?
■島としての映画
-西表、淡路-
(2008年/DV/カラー/75分)
監督・撮影:茂木綾子
録音:下村美佐、宮嶋哉行
音声編集:スドゥ・テワリ
プロデューサー:芹沢高志 、
相澤久美 、
ヴェルナー・ペンツェル、
パトリス・ネッソン、
クリストフ・ドルケルド
出演:石垣昭子、石垣金星
沖縄の西表島で糸を作り、色を染め、布を織る石垣昭子と、島の唄や祭りを愛する夫・金星。ゆっくりと流れる島時間の中、紡がれる白い糸、鮮やかに染め上がる布には、自然と人の魂が宿る。この夫婦のどこかユーモラスで、逞しく大地に根を張った生き様、酒に酔って唄い、神へと祈る、失われつつある自然から生まれ自然へと還る人の暮らしが、写真家・茂木綾子の「共生」感覚に満ちた眼差しで、見事に切り取られていく。
制作 サイレントヴォイスLLP 、Werner Penzel Film Production、
NPO法人淡路島アートセンター
茂木綾子とヴェルナー・ペンツェルの新作は、淡路島の、誰にも知られない細道や道路、ハイウェイなど、さまざまな道を、カメラを携えて巡るドキュメンタリ。その旅を通して、彼らは農業や漁業、手工業などで働く人々、この地に生き、働く男と女の日々の生活を、四季の色彩の移り変わりとともに映像に収めていく。
公開に先駆けて、そのリサーチスケッチ映像を特別に公開する。